遷移金属化合物や希土類化合物には磁性や 高温超伝導,金属-絶縁体転移などの興味ある物性を示す物質が多く、 古くから研究対象として注目されてきました。
これらの物質では、陽イオンが作る周期ポテンシャルの中を膨大な数の電子が お互いにクーロン相互作用により強く影響しあいながら運動しており、 それが複雑な物性の起源であると考えられています。 言い換えれば,これらの物質の電子状態を議論する場合、電子間クーロン相互作用に 起因する多体効果が大変重要な役割をしています。
電子同士がお互いに避け合う様子を「電子相関が強い」と表現したりすることから、 これらの系のことを 強相関電子系 と総称したりします。 一般にはこの多体問題は解くことは大変困難であり、 その正体の解明は 容易なことではありません。 日夜、世界中の多くの物理学者がこの問題に取り組んでいます。
高エネルギー分光法 はそのような物質の電子状態を探るための有力な実験手段として知られています。 高エネルギー分光とは、紫外線からX線領域にいたる高いエネルギーの光あるいは 電子線を試料に照射したときの試料の応答を研究する学問です。
光を照射するのか電子線を照射するのか、試料から放出される光を観測するのか 電子線を観測するのかにより、 光電子放出(光電効果)、光吸収、発光、 逆光電子放出 などの実験方法が有り得ます(電子線を測定していても ”分光”というのはやや変ですが、原語ではspectroscopyと言います)。
これらの実験方法は日々改良が加えられ、また独創的な装置が開発される などして発展しています。 特に最近進歩が著しいのが放射光を用いた研究であり,日本国内では KEK-PF, SPring8, UVSOR(分子研), Hi-SOR(広島大),など いくつかの施設を中心にしてプロジェクトが進められています。 (see also X-Ray WWW Server[Uppsala Univ.] ,日本放射光学会)
しかし、実験データの解析を 支援する理論については まだまだ未整備な部分が多く、今後も発展が望まれています。 標題の「強相関電子系の高エネルギー分光の理論」とは、このような実験方法に よって得られた強相関電子系の高エネルギー励起スペクトルを理論的に解析して、 その物質の基底状態、励起状態の電子状態、あるいは励起状態の緩和過程などを 調べようという試みです。 従って、実験データの解析理論を作るということと 興味ある物質の電子状態を調べるという二つの役割を担っています。