プロフィール
自己紹介
石野宏和と申します。 専門は、宇宙・素粒子実験物理学です。 今は、宇宙背景放射とそれに関連した超伝導検出器の開発、 スーパーカミオカンデにおける超新星爆発ニュートリノモニターの開発を行っています。 趣味は散歩で、歩きながら周りの景色をじっくり堪能するのが好きです。 家の近くでも季節ごとに見られる景色が違うので、いろいろな発見があり面白いですよ。 後は食べるのが好きです。岡山はフルーツが豊富にありおいしいのでとてもうれしい。 また、瀬戸内海の魚と地酒も楽しんでいます。 でも最近体重が気になってきたが。。。
略歴
1971年 東京都で生まれる
1990年 都立国立高校卒
1994年 東京工業大学理学部物理学科卒
1999年 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了、博士(理学)取得
1999年 日本学術振興会特別研究員(PD)
2000年 東京工業大学大学院理工学研究科 助手
2007年 東京工業大学大学院理工学研究科 助教
2008年 岡山大学大学院自然科学研究科 准教授
2017年 岡山大学大学院自然科学研究科 教授
現在に至る
これまでの研究歴
これまでの研究歴をまとめると以下のようになります。
それぞれリンクをクリックすると詳細に飛びます。
1994-1999年:スーパーカミオカンデでの太陽ニュートリノの研究
1999-2000年:K2K実験
2000-2008年:B-factory (Belle)実験
2008-年:LiteBIRD、超伝導検出器開発、超新星爆発
1994-1999年:スーパーカミオカンデでの太陽ニュートリノの研究
1994年に大学院に入学してから、スーパーカミオカンデ実験に参加しました。
大学のときにニュートンという雑誌に、カミオカンデという実験が紹介されていて、
何やら山奥の地下に大量の水を溜めて何かやっているようなことが書かれていました。
大学生のときは、目の前にある物理を必死に勉強していましたが、
あと1年で卒業という事実が見え始めるにあたって
この先どうしようかと考えていた時にこの記事を読んだのでした。
なにやら面白そう、という軽々しい理由で希望しました。
カミオカンデは陽子崩壊やニュートリノの検出を行っている。
特に有名なのは、1987年にマゼラン星雲で起きた超新星爆発1987Aからのニュートリノを
史上初めて検出したことでした。
他にもニュートリノが消失しているように見えるアノマリーが太陽・大気ニュートリノ
の観測から示唆されていました。
大学院に入ったときは、
このカミオカンデのスケールを20倍近くにスケールアップしたスーパーカミオカンデの
穴掘り作業が進行中でした。
修士課程の時は、スーパーカミオカンデ実験の建設および立ち上げでとても忙しかった。
しかし、このような大規模な実験の立ち上げに参加できたのはものすごくラッキーでした。
1996年4月にいよいよスーパーカミオカンデによる実験が始まりました。
私は主に太陽ニュートリノの研究を行っていました。
太陽の内部では、水素原子核がヘリウム原子核に変換する核融合反応がしきりに起きており、
そのときに放出されるエネルギーで太陽は輝き、地球上で生物が生きてられるのです。
この核融合の際に、ニュートリノも一緒に生まれるのです。
太陽から来るエネルギーと、一個のヘリウム原子核ができるときに放たれるエネルギーの関係から、
地球にやってくるニュートリノの数を計算できるのですが、実際にそのニュートリノ数を数えると
半分ぐらいしか来ていない。どこかで消えたのか?計算が間違っている?これが太陽ニュートリノの
消失問題で、発見から50年間謎でした。
当時、太陽ニュートリノの消失はニュートリノ振動が原因ではないかという有力な説がありました。
それを証明することがスーパーカミオカンデの使命でした。
そのためには、エネルギーを1%の精度で測らなくてはならない。
そのために電子線形加速器がインストールされ、そこからの電子ビームを検出器内部に直接打ち込む
エネルギー較正を行いました。
また、宇宙線ミューオンが崩壊する際に生じる電子の事象から、
水の透過率を精度良く測定する方法を新しく開発することにより、
どうにか達成できました。
測定結果、ニュートリノ振動である確実な証拠は得られませんでしたが、
世界で初めて太陽ニュートリノのエネルギースペクトルを測定したということで、
博士論文を書きました。また、Phys. Rev. Lett. にも掲載されました。
(その後2001年にカナダのSNO実験とスーパーカミオカンデ実験の双方の結果を
合わせることにより、太陽ニュートリノの消失はニュートリノ振動が原因であることが
証明されました。)
1999-2000年: K2K実験
一方で、1998年にスーパーカミオカンデ実験によって、
大気ニュートリノによるニュートリノ振動が発見され、ニュートリノは質量を持つことが
初めて明かされました。
それを証明するために、人工ニュートリノビームを高エネルギー加速器研究機構(KEK)から
スーパーカミオカンデ検出器に飛ばす長基線ニュートリノ振動実験(K2K実験)が計画されていました。
私は博士取得後、そちらの実験に加わることになりました。
ニュートリノビーム直後のニュートリノの流量を10%の精度で測定することが必要でした。
私は、KEK敷地内の前置検出器を用いて、ニュートリノの流量をその精度で測定する方法を確立しました。
K2K実験が順調に進んでスーパーカミオカンデでもニュートリノ事象が溜まり始めたころでした。
当時私は学振PDということもあり、次の職のことも考える必要がありました。
丁度その時に東工大で助手のポストが空き、それに応募したところ、大変幸運にも雇って
頂くことになりました。
K2K実験をやめなければならないのは残念でしたが、Bファクトリー実験に参加することができたのは幸運でした。
2000-2008年: B-factory (Belle)実験
Bファクトリー実験は、電子と陽電子を衝突させて沢山のB中間子をつくり、
その崩壊過程から物質と反物質の対称性(CP)の破れを測定することが主な目的で、
K2Kと同じ1999年から始まりました。
私は2000年からそちらの実験に参加しました。
これまでニュートリノ一色だった私にとって、全く未知の世界でした。
Bファクトリー実験では、最初は現行SVD (Silicon Vertex Detector)のおもりと新しいSVDの開発を
行うことになりました。
SVDはBファクトリー実験の検出器の内、最内層にある検出器で、
B中間子の崩壊位置を精度良く測定する装置です。
CPの破れを測定するには無くてはならない装置です。
検出器の最内層にあるので、電子・陽電子ビーム起源の放射線を沢山浴びるので、
検出器の性能が変わりやすい。
そこで、SVDの性能を逐一モニターするWEBモニターの作成を行いました。
SVDシフトなるものを組織化し、海外を含めたコラボレータがSVDの性能を毎日チェックする
機構をつくりました。
それと同時並行に、SVDのアップグレードにも参加しました。
SVDを構成している一部分にDSSD (Double sided silcon detector)という検出器を浜松ホトニクス
という会社に製作して頂いていました。
そのアセンブリ作業を共同研究者・学生らとともに行いました。
また、新しいSVDの読み出しシステムの開発も行いました。
Bファクトリー実験では、年々ビーム強度が増し、その分トリガー頻度も上昇していました。
SVDからのデータを1kHz以上の頻度で取得する必要があります。
私はKEKスタッフ・学生らとともに、当時最先端のPC12台で並列読み出しを行い、それらのデータを
マージ(イベントビルダー)してからBelle のオンラインシステムにデータを送るシステムを
開発しました。いろいろな苦難がありましたが、最終的に1.3kHzまでのデータ取得が
可能だということが分かりました。
さらに、SVDのソフトウェアについても整備を行いました。
SVDのアセンブリの精度はせいぜい100ミクロンですが、要求される精度は10ミクロンです。
このずれはソフトウェアで補正するしかありません。
私たちはそれをアライメントと呼びました。
前身のSVDでアライメント手法が既に開発されていましたが、新型SVDではその手法はそのまま
使えないことが分かりました。
半年~1年程度、学生らと試行錯誤の上、ようやく新しいアライメント手法を確立しました。
宇宙線ミューオンを用いた性能評価により、旧型SVDよりも20%以上良い位置分解能を得ることができました。
2003年夏の加速器シャットダウン時に新型SVDがインストールされたときは感無量でした。
新型SVDの開発をひと段落した後は、本格的に物理解析に参入しました。
当時J/psi KsでのCPの破れは既に発見されており、CKM位相の一つφ1という角度が
精度良く測定されつつありました。
私は、別の角度φ2を測定するこになりました。
φ2グループの解析リーダーとなり、B --> π+πーの解析をしつつ、
他の解析のとりまとめも行っていました。
B-->π+πーの解析においては、particle IDの情報を含めた新しい解析方法を確立し、
感度を極限まであげることにより、2006年8月に直接的CPの破れを5σで発見しました。
この結果は、Phys. Rev. Lett.誌に
掲載され、その号で最も注目される論文として、
Editors' Suggestion をもらいました。
当時アメリカのBaBar実験というライバル達も同様な測定をしていましたが、
Belle実験の結果とは3σ弱異なっていました。そのためいろいろな論争がありました。
(2013年の結果では、両実験とも歩み寄り、全くコンシステントな数値になっています。)
2008-年:LiteBIRD、超伝導検出器開発、超新星爆発
これまでいた東京工業大学から岡山大学に移るにあたり、新しい実験を目指すことになりました。
KEKのH先生が提案した宇宙マイクロ背景放射偏光測定衛星実験LiteBIRDに参加し、
超伝導検出器の開発を始めました。
超伝導というのは、それまで話にきいたことがあるぐらいで、詳細は全く知りませんでした。
超伝導検出器の開発には、検出器を超伝導状態にしないといけない。
そのためには、極低温まで冷やすことができる冷凍機を持つ必要があります。
2007年ごろから、ぼちぼちその開発を始めました。
最初は、理化学研究所において、その作製方法・性能評価方法を習っていました。
同じ年ごろにKEK測定器開発室において、超伝導検出器(SCD)開発グループが立ち上がり、
そのグループの一員として開発を進めることになりました。
岡山大学やKEKにおいて、冷凍機システムを立ち上げ、またKEKクリーンルームにおいて
超伝導検出器の作製を行っています。
この超伝導検出器については、軽い暗黒物質探索のための全く新しい検出器として応用を目指しており、
私の研究室の学生がその素子作製と読み出しについての開発に奮闘しています。
科学衛星LiteBIRDは、宇宙最古の光である宇宙マイクロ波背景放射の偏光を精密に測定し、
ビックバンよりも前に起きた宇宙の大加速膨張(インフレーション)の謎に迫ることを目的とします。
また、2008年からスーパーカミオカンデに復帰することになり、
超新星爆発モニターの研究を行うことになりました。
いつ起きるかわからない超新星爆発をニュートリノで検出し、
その方向を即座に計算し、世界中にアナウンスする仕組みを開発しています。
これらの研究についての詳細は、こちら
を見てください。