転移温度 38 K:鉄白金系超伝導体の発見
Ca10(Pt4As8)(Fe2-xPtxAs2)5
銅酸化物と鉄系超伝導体で共通する特徴に層状の結晶構造があります。いずれも、超伝導を担うCuO2層あるいはFeAs層の間にスペーサー層と呼ばれる
層間物質が挟まっています。これはサンドイッチに例えることができて、パンにあたる部分が超伝導層です。ベドノルツとミュラーはCuO2で出来た、とても美味しい
パンを、細野らはFeAsで出来た、また別の美味しいパンを発見しました。
今のところ2種類のパンしかないので、美味しいサンドイッチを作る(転移温度を上げる)には具材(層間物質)を工夫するしかありません。
鉄系超伝導体で、これまでに見つかった具材は3つに大別できます。第一がアルカリ金属やアルカリ土類金属で、LiFeAsのLiやBaFe2As2のBaが相当します。
このグループの最高の転移温度は(Ba,K)Fe2As2の38Kです。
第二が蛍石構造の層間物質で、LaFeAsOのLaOやCaFeAsFのCaFがあります。このグループの転移温度が最も高く56Kが得られます。第三が金属酸化物からなる具材で、
Ca4(Mg,Ti)3O8を挟むと47Kの超伝導が現れます。
今回、私たちが発見した超伝導体は、このどれにも属さない第四の層間物質 - Ca10(Pt4As8) - ヒ素化合物を含んでいます。このような共有結合性の
層間物質は、銅酸化物には無かったもので、鉄系超伝導体の物質としてのポテンシャルの高さを示すものと言えます。このような面白い構造ができた理由は。
FeとPtの好む配位構造が著しく異なるためです。すなわち、Feは八面体6配位や四面体4配位を好みます。一方でPtは平面4配位や直鎖2配位を
好みます。このように異なる配位を好む陽イオン(カチオン)を組み合わせると思わぬ構造の新物質ができることがあります。
今回発見した新超伝導体では、FeAs層は四面体4配位です。いくらかのPtは「がまんして」Feの位置にも入ります。しかし、多くのPtは、より安定な平面4配位
を求めてPt4As8面を形作ります。Pt4As8面には分子状As2の形成という、ヒ素の化学の面白さもあります。
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Kakiya et al., Journal of the Physcal Society of Japan, 80, 093704 (2011).
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Nohara et al., Solid State Communications, 152, 635 (2012).
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