基盤研究(B)(平成26-30年度)
予算名: | 科学研究費補助金 |
種目: | 基盤研究(B) |
期間: | 平成26-30年度 |
タイトル: | 「超伝導光検出器を用いた液体ヘリウムTPCの開発と軽い暗黒物質の探索」 |
概要
質量が10GeV/c2以下の軽い暗黒物質(WIMP, Weakly Interacting Massive Particles)を
液体ヘリウムを標的として検出するための観測装置の開発と検討を行った。
宇宙の26%は光と相互作用しない暗黒物質から構成されている、ということが分かっている。
暗黒物質の正体として、弱い相互作用する素粒子(WIMP, Weakly Interacting Massive Particles)が
候補として考えられており、世界中の研究者がWIMPの直接探索を目指している。
WIMPを発見したと報告する実験グループがあれば、それを真っ向から否定する実験グループがあり、
その真意は今もって不明確である。これまでの探索実験では、Xe, NaIなど重い原子核が標的として用いられたため、
質量が10GeV/c2以下のWIMPにはあまり感度が無かった。上述の真意は、軽い暗黒物質に感度を持てば解決可能である、
と考えられていた。
その中、2013年にW. GuoとD.N. McKinseyは液体ヘリウムを用いた暗黒物質探索実験を提案した。
液体ヘリウム中のヘリウム核がWIMPからの散乱で反跳を受けると、周囲のヘリウム原子を励起・電離する。
それらは1光子16eVの深紫外線シンチレーション光を発する。
これまでは、液体ヘリウムシンチレーション光を検出するために、液体ヘリウムデュワーに窓を開けて、
波長変換板により深紫外線光を可視光に変換、サファイア窓を通じて光電子増倍管で検出する手法が使われていた。
この手法では、窓の大きさによる立体角の制限、波長変換効率および光電子増倍管の量子効率のため、
おおよそ1%程度の検出効率しかない。5keVの反跳エネルギーを受けると、約80個の紫外線光子が放出されるため、
この手法ではWIMPによる信号を検出するのは困難である。
そこで、極低温下で作動し液体ヘリウム内で直接紫外線光子を検出可能な超伝導検出器を用いる手法を提案した。
この手法により、シンチレーション光の検出効率を20%以上にすることができる。
また、反跳ヘリウム核と環境ガンマ線による反跳電子の信号を区別するためにTPC (Time Projection Chamber)
を用いることにより、ヘリウム原子の電離と励起の比を測定する。
液体ヘリウムを用いたTPCはこれまで世界で成功例はまだない。
1kgの液体ヘリウムを用いて1年間観測すると、質量4GeV/c2のWIMPに対して、
スピンに依存しない相互作用断面積について10-40cm2の上限値を与えることができる。
この値は、提案当時(2013年11月)において、前人未到の探索領域であった。